漫画のできるまで その62012/12/02


■ベタ&トーン

トーンは「PowerTone」という、プラグインソフトを使っています。
プラグインソフトとは、ほかのソフトに後から組み込んで使う機能のソフトです。

トーンの指定は、こんな感じで、コピーした原稿に、色えんぴつを何色か使って指定します。



色えんぴつはこんな感じのものを使っています。



指定をわかりやすくするために、何色も使っていますが、アナログでのトーンの指定は、この色えんぴつの「水色」を使います。
アナログ原稿の場合は、薄い青での指定は印刷に出ないので。
デジタル原稿では、スキャニングすると濃い水色は拾ってしまうこともあるので、トーンを貼る前に消してもらっています。

トーンは、貼る範囲を選択し、Photoshopのメニューバーの「フィルタ」から「スクリーントーン」を選びます。



選択範囲はこんなふうに、点線で表されます。
「クイックマスクモード」という機能を使うと、選択範囲が指定した色で表示されるので、選択場所の確認にはそれを使っています。



「PowerTone」の画面はこんな感じです。
右側のトーンから、使うトーンを選択すると、原稿にそのトーンが貼り込まれます。



貼ったあとは、こうなります。



同時に、ベタも指定通り塗ってもらいます。

ベタにしろトーンにしろ、線がつながっている内側に貼るぶんには、「自動選択ツール」でクリックするだけなので簡単ですが、線がつながっていなかったりすると、大変な作業になったりします。
線のとぎれている部分を見つけるまでに、時間がかかったり……。
画面をガンガンに拡大して、やっと見つけたところが、こんなわずかな線のとぎれだったりすると、「ここかよ!」と逆ギレしたくなります(笑)



影などのトーンは、もともと線のないところに貼るものなので、「クイックマスクモード」にして、貼る範囲を指定したり、「なげなわツール」を使って指定して貼ります。

クイックマスクモードを使うと、トーンを貼りたい範囲が色で指定できるので、こんな画面になります。



クイックマスクモードを解除すると、点線での指定範囲に戻るので、このあとトーンを貼ります。



トーンやもようは、種類によって、以前解説したレイヤーに分けられて貼られています。
あとで追加や、訂正をしやすいからです。
でも時々、線画に直接貼ってしまい、あとで修正が必要になってあわてるということもあります。特にデジタルにしたてのときは、そんな原稿が多かったです(汗)。

このページのトーンのレイヤーはこんな感じになっています。
登場人物が多いと、1ページあたりのレイヤーの数も跳ね上がります。
瑠璃が後宮にいたときなどは、ほぼ全員が正装の十二単だったので、レイヤーがスゴイことになっていました……。




続きます。

漫画のできるまで その72012/12/10


■もよう

もようについては、以前「コメントへのお返事13」で書いたように、スタンプにして乗せていきます。
実際に布に模様があると、動いたときに模様が重なって、うるさく見えたりしますが、漫画なので、なるべくうるさく重ならないように、それでいて同じ場所に模様があるように見えるように、模様は置いていきます。

ブラシに登録してあるもようは、こんな感じです。
古いのは削除していきます。



きものの模様を替えるのは、場面転換をわかりやすくするためでした。
実際には平安時代、そんなにひんぱんに着替えたりはしませんでしたが、場所や日時が変わったことをわかりやすくするために、きもののもようを替えていました。

後宮でも、仕えている女房などは、十二単を着たままごろ寝したりしていましたし。
なので、瑠璃などはよく着替えていましたが、小萩のきものはあまり替わっていません。

トーンやもようが入ると、こんな感じになります。



■合成

ペン入れのところでも書きましたが、背景だけを先に描いてもらい、あとから描いた人物や、書き文字などを、トーンや模様の作業といっしょに合成します。

「人妻編」コミックス11巻、131ページの1コマ目は、女房はあとから描き入れています。
この場合、別の紙に女房を描き、別レイヤーにのせて、はみ出た線を消して重ねます。



また、下描きやペン入れの段階で、大きな修正が入る場合なども、あとからデジタルで合成や修正などをすることもあります。

たとえば「人妻編」コミックス11巻、123、126ページですが、ネームの段階では左大臣と右大臣の位置を決めていませんでした。
しかし途中で、帝の御前では、左大臣と右大臣の座る席が決まっていることに気がつき、確認したら座る位置が逆でした。

その段階で、123ページのペン入れはすんでいて、こんな状態でした。



また、126ページは、下描きまでは入っていて、こんな感じになっていました。



123ページは、コマの形や、ふきだしの位置の関係で、デジタルで反転しては不自然になるので、コピーを取って、そのコピーを反転したものをトレースして、別の紙にペン入れ。

126ページも、同様に反転したものをペン入れ。
描き直した絵が、下のものです。



それをパソコンに取り込んで、元原稿の該当部分に合成したわけです。
合成するとこんな画面になります。



多少の位置のズレなども考慮して、合成する絵は大きめに描いておきます。
そして、いらない線をあとから消します。
上の絵はまだ消していない状態のものです。

合成してできた画面が、下の2枚です。
 


ほかにも、アナログの作業のときに描き忘れたものを、デジタルで描き込んだり、貼ったりします。


続きます。

漫画のできるまで その82012/12/17


■エフェクト

エフェクトは使いすぎると、デジタルデジタルした画面になってしまうので、私はあまりモノクロ原稿では使いませんが、こんな感じのデジタル処理とかです。

「人妻編」コミックス6巻118ページ2コマ目



拡大すると、こんなふうに線がドットの集まりになっています。



カラーの原稿のときは、このエフェクトという機能をよく使います。
線をドットに変換するだけではなく、にじませたり、ぼかしたり等、いろいろできます。

たとえば、このブログの横のバナー絵にエフェクトをかけてみると、こんな感じになります。


これはふつうにぼかしたもの。


横にぶれた感じのぼかし。


外側がぼけている。


外側が放射状にぼけている。


紙の質感を変えた感じにしたもの。


印象派の絵のような点描。


こんなのもあります。

面白かったので、いろいろやってみました(笑)。


■統合&二値化

デジタル原稿は、先にも書いたように、何枚ものレイヤーで構成されているので、それを一枚に統合します。
この段階では原稿のデータのモードが「グレースケール」になっているので、それを「二値化(モノクロ二諧調)」にします。
そのあと、絵のふちをきれいに切り落とし、えんぴつ書きのセリフを消します。



セリフは、原稿用紙に書き入れた段階で、コピーをしたものを編集部へ送ってあるので、途中の作業で消してもいいのですが、絵と文字のバランスをみるために、最後まで残しています。


■印刷&入稿

「人妻編」連載初期の頃は、この段階で、レーザープリンターで印刷したものを編集部に渡していました。
最初の頃はデジタルに慣れていなかったため、印刷した原稿にトーンを貼ったり、描き忘れた部分などを描き足したりしていました。

印刷された原稿にトーンを貼ると、トーンの糊の部分に印刷部分のトナーが持っていかれたり、カッターで切るときに、トナーが削られたりして大変でした。
おもにアシスタントさんが、ですが……(汗)。

その後、データのままでも入稿できるようになったので、データ原稿を圧縮して、ネット回線を使って編集部に送っています。

データでの入稿と、印刷した原稿での入稿では、本になったとき、少しだけ線に違いがでていました。
レーザープリンタでは、600dpiという解像度で印刷されるのですが、漫画の原稿となると、ちょっと線が荒くなっていました。

連載の途中までは、印刷したものを原稿としていたので、ページによってはデジタルで処理するより、アナログで処理したほうがよいものもあり、デジタル、アナログ、混合の原稿でした。
私の手元には、スキャニングしたあとの、ベタやトーンを貼っていない原稿が残っているのですが、混合原稿は、一部ををアナログ原稿で渡しているため、数ページ欠けた状態で保存してあります。

データでの入稿になってからは、元の原稿が欠けるということはないのですが、時々トビラのページだけアナログということもありました。
トビラページは、タイトルのレイアウトの都合もあり、本文の原稿より早めに入稿するので、アナログ処理のほうが早いと判断したときは、アナログで入稿していたからです。

その場合は、宅急便で編集部に送ります。
原稿が折れたりしないよう、厚紙で保護するので、段ボールなど、ちょうどいい大きさのものが出ると、とっておきます。

瑠璃や高彬は、岡山の桃だの、電化製品だのの厚紙にはさまれて、編集部に送られていました(笑)。


■進行表

デジタルになってからは、作業中、手元に原稿がないので、仕事の進み具合がわかりにくいため、「進行表」を作っていました。
こんな感じで、その項目がすむと、チェックしていくというものです。
他にも、50ページ用の進行表があります。



上部の項目は、その時々の進行状況によって変化します。



まだデジタル進行に慣れていない頃、印刷した原稿を渡した後、編集さんから「原稿が2枚足りない」と電話がかかってきました。
進行表を見ると、ちゃんと「印刷」にチェックが入っています。

このとき、まったく自分のミスだとは思っていなかった私ですが(←おい)、PCの中の原稿のフォルダを見ると、印刷済みのフォルダに、その2枚は入っていませんでした。

つまり、最初から印刷されてなかった、と……。

「え~~~っ! 誰だよチェックしたの!!」  ←……自分です。

原稿は間に合いましたが、編集さんには平謝りでした。
進行表にチェック入れてる意味がないというか……(汗)。

また、データでの入稿時には、同じページが重複していて、1ページ足りなかったこともありました。
これもまた、編集さんからの連絡で判明しました。

○ページに△ページを上書きしてしまったため、△ページが2枚になり、○ページが消えてしまっていたという状態でした。
ファイルのページ数はあっているので、送るときに気がつかなかったんですね。

これは元ページが残っていたので、消えたページを再度データで送って、ことなきを得ました。

どちらもアナログ原稿のときは、絶対に起こらなかったミスでした。
以降、最終チェックはしっかりやっています。

アナログもデジタルも一長一短ですが、ミスのほとんどは、どちらも「ヒューマンエラー」なんですよね……。


続きます。
次回でこの項は終わりです。

漫画のできるまで その92012/12/25


■トーンの指定表

デジタルのトーンを貼るとき、印刷された状態でないと密度などがわかりづらいので、印刷したサンプルを元に、貼るトーンを選んでいました。
その指定表がこれ。
これを見ながら、トーンの番号を指定して貼っていきます。



一枚目の指定表の汚れは、311の地震のときのものです。
指定表の横にコーヒーを入れたカップが置いてあり、中身は半分も入っていなかったのですが、地震の揺れでこぼれていました。
それだけ大きな地震だったのだと、指定表を見るたびに、そのときのことが思い出されます。


■トーンの指定記録

連載では、キャラが何話にも渡って出てくるので、それぞれの登場シーンに貼ったトーンを記録しておきます。
各話ごとに、誰のきものに何番のトーンを貼ったのか、メモしておいたものをこうして書き出しておくわけです。
こうすることで、続きを描いたときや、回想シーンを描くときなど、困らないようにしていました。

時々メモするのを忘れて、困ることはありましたが(汗)。




■ネームの一稿から

「漫画のできるまで」を、手順の流れでご紹介してきましたが、1ページの「できるまで」をまとめてみました。
「人妻編」コミックス8巻 132ページです。

ネーム一稿


ネーム二稿
ページ配分やセリフが、ビミョウに違っています。


ネーム


下描き


ペン入れ後
これは原稿のコピーなので、トーンの指定が色えんぴつで記入されています。


完成


こんな流れで漫画を描いていました。


■以上で「漫画のできるまで」は終わりです。
細かく書いていったら、なんだか長くなってしまいました。

漫画は人によって、描く方法や手順が違います。
最近ではデジタルで漫画を描く方も増えてきました。私のように半分デジタル、という場合や、最初から最後までフルデジタルという人もいて、それぞれがやりやすい方法で描いているのだと思います。

ここでは、私のやり方をご紹介しましたが、私個人でも、漫画を描きはじめた最初の頃からでは、描き方や手順が大きく変わりました。
ほんとうに初期の頃は、コマのワク線は「からす口」という製図道具を使ってひいていました。
毎回、この「からす口」を研ぐところからはじまるのですが、お習字で言えば墨をする行為にあたるような感じでした(笑)。
途中で「からす口」は「ロットリング」というものに代わり、今はコピックのマーカーになっています。

ワク線ひとつでも、長く描いているとより便利な道具、使いやすい道具へと変わっていくので、あと10年もすると、どれだけ違う道具を使っているのか、想像するとおもしろいですね。
10年前には、まさかパソコンを使って漫画を描くなんて、自分ではやらないと思っていましたし。

最後にマシンスペック(これはカラーの描き方のところでもご紹介しました)と、使っているアプリケーションソフトをご紹介しておきます。



パソコン 
iMac OS 10.5.8
Power Mac G4 OS 10.3.2

スキャナ 
EPSON ES-7000H

プリンター 
RICOH ipsio NX650S 

ペンタブレット 
wacom intuos 2 i-620
wacom intuos 4 Medium

アプリケーションソフト 
Photoshop CS2
ComicStudio 3.0 EX
PowerTone3(プラグインソフト)

ふろく、他2012/12/31

原稿の整理をしていたら出てきました。
なので、またアップしてみます。

まずは、ふろくから。

・1989年 花とゆめ20号 ふろく
 ジャパネスク・レポートPAD

「ふろく&読者プレゼント2」でご紹介した内容で合っていました。

表紙


中身



・キャラストップ レターセット

前回の写真は、雑誌の広告ページのスキャンだったので、現物をスキャンしてアップしてみました。
イラストやカットは、ほかで描いたものの転用ですね。

びんせん 表&裏


封筒 表&裏

封用のシール



・書店用のポップ

「人妻編」2巻が始まるときに描いたものですね。裏も同じものが印刷されています。
どこかの本屋さんで、このポップを見た方もいらしたかもしれません。